
屋上緑化の現状 緑化によるさまざまな効果が期待される |
 世田谷区環境共生住宅
|
昨年3月、東京都世田谷区に完成した区営住宅「深沢四丁目アパート」は、風力発電など環境を守るためのいくつかの試みを行っているので注目を集めた。その中でも最も面白い取り組みが、屋上に敷き詰めた芝生だろう。5つの居住棟の屋上の約60%の3,000Fほどが芝生に覆われている。
この芝生は、居住者がその上でくつろいだり、遊んだりするためのものではなく、ヒートアイランド現象の防止や、断熱効果を期待して設置されたものである。ヒートアイランド現象とは、都市化した一帯が周辺部分より温度が上がる現象で、東京など大都市によくみられるものだ。特に建物屋上は、コンクリート押さえなどに当たる直射日光で、表面温度は60度以上にも上昇すると言われる。これが周囲の気温を高くする大きな原因になるのだ。屋上緑化は、この気温の上昇を緑や土で抑えることができる。またこの土の層や緑が一種の断熱材の働きをして、通常なら最上階の部屋は冷房が欠かせない状態になるのだが、屋上緑化により、だいぶ軽減できるというのだ。冬は逆に屋上が急激に冷やされ、最上階は暖房がなかなか効かないということが起こる。このアパートは、屋上を芝生で被覆したため、「暖房をつける時間が確実に短くなった」(世田谷区)という。同区では、「今後も条件が許せば、区営住宅は屋上緑化をしていきたい」と話す。また東京都内では、豊島区が区営住宅に屋上緑化を取り入れているようだ。
大阪に93年完成した実験住宅「NEXT21」にも、屋上やテラスに緑化が取り入れられている。ここには約1,000F程が緑化され、逐次データ収集が行われているが、それによると夏場の建物の表面温度が、周辺の建物に比べて5〜6度ほど低くなっているのが確認されている。例えば夏の午後3時の周辺の建物の表面温度は約40度であるのに対し、NEXT21の植栽部は34〜35度に抑えられていることが、熱画像写真でハッキリと確認できたという。
このように、屋上に植栽を施す手法は、緑が欲しいという要求もさることながら、このような別の効果をも生み出している。さらに最近では省エネルギーへの要求とも相まって、断熱効果などへの要求から屋上を緑化するというケースも増えてきているのだ。
一方、自然回帰から屋上緑化を施す例も少なくない。先ほどのNEXT21は、また面白いデータ収集を行っている。NEXT21の緑地の生育は良好で、さらに当初植栽した植物に加え、新たに21種の植物の自生が確認された。またここで観察された鳥が19種、蝶が16種と、大都市の中では信じられないほどほ豊かな自然相が形成されている。
その他、居住者や周辺住民への住環境に対する評価(図参照)も行われたが、これによると入居者・周辺住民ともに植栽に関しては「多様」「楽しい」「きれい」と高く評価している。野鳥に関しても「自然が感じられる」と良い印象を持っている。また入居後に「環境問題に対する関心が高まった」などの意識の変化が見られ、環境教育面でも屋上植栽が大きく関与している結果となった。
様々な効果を生み出す屋上の植栽だが、このところの地球環境の保全といった動きとも相まってひとつにブームになりつつあるようだ。昨年京都で行われた地球温暖化防止会議でもその手だてとして樹木による二酸化炭素の吸収の効果の大きさが議論を賑わせた。このようなことからも、遊休地の有効活用として、屋上の緑化は見直されていかなければならないだろう。
|
●NEXT21植栽のイメージは?● |
 |
|